それだけ ~先生が好き~
「・・・こんな話聞きたくないかもしんないけど、話していい?」
先生は耳元で小さくそうささやいた。
なんだろ。
先生の話で聞きたくない話なんてあるわけないのに。
「翔の・・・昔の話なんだけど」
同じこと、考えてたんだ。
遠慮している先生は・・・目を合わせようとしない。
「いいよ。先生の話ならなんでも聞きたい」
「そうか?ごめんな、この間・・・お父さんが亡くなったのは知ってるよな」
「うん、聞いた」
「前に話したっけ、お父さん酒乱で大変だったこと・・・。翔もそれでかなり悩んでて、何度も夜が怖いって言ってたんだ。夜はお父さんが暴れるからって」
私と・・・似てる。
重ね合わせるつもりはないけど、似ている。
指輪を動かしながら先生は笑う。
「でも俺が紹介されに行ってからは、なんかすごく穏やかになってさ。暴れることもなくなって。それで・・・この間、本当に死に際にさ、言ったんだって」
悲しいわけじゃない
苦しいわけじゃない
だけど、いつの間にか視界がぼやけてる。
そんな私に・・・先生は微笑んで言った。
「迷惑かけてごめんなって。本当にごめんって。一緒に生きてくれてありがとう・・・って。奥さんと、天国の翔に言ったんだ」