それだけ ~先生が好き~
目の前に
毎日の卒業式の練習も、あと数回。
先生はうるさい男子を注意しながら歩いたり、座ったりする。
城田が遅れて入ってきたときも、すかさず近寄って行ってた。
ちょっと、うらやましい。
先生がかがんで生徒と目線を合わせて注意する姿も
頭をこづく仕草も
生徒の隣に座る後ろ姿も・・・。
全部、もう見られなくなるかもしれないんだ。
『私達の先生』じゃなくなるんだ・・・
恋人として、そばにいてもらうことはできる。
だけどやっぱり少し・・・寂しいんだ。
いつも当たり前だったことがなくなるって。
先生が私の体育の担当から外れたのもすごいショックだった。
体育のある日を楽しみにするのがなくなっちゃったから・・・。
校歌の声が小さい、と何度も音楽の先生の指摘が入る。
「歌詞・・・見えないんだもん、しょうがないじゃんね。覚えてないし、校歌なんて」
と、口々にみんなが文句を言う。
去年の卒業生が作った校歌のレリーフが飾られているんだ、体育館には。
みんなの頭でよく見えないけど・・・。
この校歌もあと何回歌うんだろ・・・。
精一杯歌っとこう。
斜め前で大きな口をあけて歌う悠と美咲を見習おう。