【短編】天然鈍感アホ男
「えっ、あたしが?!」


思い切り動揺をしながら持っていた箸を落としてしまった。


「そうだよ!あたし聞いたんだけど松本くんの家お母さんが朝仕事が早くてお弁当作れなくて松本くん、いつも購買部でパンとか買ってるんだって!」


最後に「光くんに聞いたの」と顔を真っ赤にして付け足した成美ちゃんが可愛くてつい笑ってしまった。
成美ちゃんには彼氏がいる。
それが光くんって子。裕太と仲が良くていつも一緒にいる。
そんな光くんが成美ちゃんの彼氏であたしは色々裕太の情報を教えてもらったりしてる。


「あたしが裕太にお弁当かぁ・・・」

「うん、アタックするチャンスだよ!」


そう言って小さくガッツポーズをする成美ちゃんの期待を裏切れず「うん、やってみる」といつの間にか言ってしまっていた。
昼休みが終わり帰りの会が始まった時、あたしは裕太に聞いてみた。


「裕太って、お昼は購買部で買って食べてるの?」


その一言を言うだけにどれだけ緊張したか裕太にはわからないよね。
すっごくドキドキしたんだから!


「せやで。毎日パン買うとるちゅう訳でな、おかげ様で金欠や!」


ハハッと笑い声をあげる裕太。
よし、言わなきゃ。今なら言える。


「なら、その・・・お弁当とか・・・作ってあげよっか?」


勇気を出して言ったのに何故か後から後悔と恥ずかしさがやって来る。
裕太の反応が気になるけど、まともに顔が見れない。
幸い周りはガヤガヤとうるさくて皆から聞かれてる事はなかったから、それが唯一の救いだった。


「ホンマか?!ならハンバーグとエビフライは必ず入れてや!あとデザートはリンゴな!」


嬉しそうに答える裕太を見てホッと安心した。
良かった。断られたら立場ないもんね。


「任せて!美味しいもの作ってくるから!」

「おう!期待しとるで」


その日の帰り道、あたしはお弁当のメニューで頭がいっぱいだった。
裕太、あんなに嬉しそうにしてたから「うまい!」って言わせたい。
ハンバーグとエビフライとリンゴは必ず入れるんだよね。リンゴは家にないから買いに行かないと。

そしてあたしは一回家に帰り財布を持って近くのスーパーへと買出しに向かった。
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