小悪魔アイドルの秘密【TABOO】
小悪魔アイドルの秘密
「ハヤティー可愛いわぁ」

最近の母は、アイドルの隼田彰(はやたあきら)に夢中らしい。

母性本能をくすぐるのだと、嬉しそうに話している。

アイドルなんてただの職業なのに。



家でゴロゴロしていると、買い物を頼まれて外に出る。

はき古したミュールで歩いていると、帽子を深くかぶった人が目についた。

地味な服装をしているがよく見ればブランド物。

お忍びのアイドルみたいと冗談半分に思う。

「ちょっといい?」

遠慮もなしに話しかけられて、私は思わず身構えた。

「……何ですか?」

「この辺りに『やまびこ』ってうどん屋あったよね?」

「ああ、それなら閉店しましたよ。店主さんがお年で」

「えっ!……マジで?」

閉店と聞いた途端、男がガックリと肩を落とす。

「俺の梅うどんが……」

確か、梅うどんは『やまびこ』の名物だ。

あまりにもショックを受けているので、何だか気の毒になる。

「良かったら、お弟子さんのお店教えましょうか?」

「頼むっ!」

弾かれた様に彼が顔を上げて、私は男の顔を初めて認識した。

 
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