でも、振り向かないで…
里中真一【さとなかしんいち】さんは、私より3つ年上の先輩。
入社して社会の事が何もわからないひよっこの私に、時には優しく時には厳しく様々なことを教えてくれた。
里中さんを好きになるのに時間はかからなかった。
ついつい彼を目で追ってしまうので、同期の子には私の想いはすぐにバレてしまった。
慣れないことも覚えることも多く、それはそれは大変ではあったが、里中さんの存在を感じるだけで、一生懸命頑張る事が出来たんだ。
しばらくすると里中さんは別の部署に異動になり、大きなプロジェクトのメンバーに抜擢された。
それからはエンドユーザーである大手証券会社に出向となり、会社にはほとんど姿を見せなくなった。
たまに会うと、爽やかに声をかけてくれた里中さん。
皆と楽しそうに談笑したり、たばこを吸いながら前髪をかきあげる、その姿。その仕草。
大好きだな。
そんな彼の事、いつまでも見続けていられると思っていた。
その証券会社が倒産したと聞いたのは、プロジェクトが立ち上がって1年が過ぎた頃だった。