彼の隣は。
「成瀬ー。」
彼の声で。私のことを呼んだだけで心が弾む私はきっと馬鹿だ。
「...ん、なに?」
出来るだけ冷静に。この気持ちがばれないように。いつもどうりの私で。
「...今日さ、一緒に呑まねえ?」
あ。またあの子と何かあったんだ。
彼の表情と、声のトーンとで分かるほどこれは何回もあったわけで。
それに答える私の返事はいつも決まってる。
「うん、いいよ。どっか行く?」
「や、今日は家で呑もうぜ。」
嗚呼、何だかすごいダメージを受けているらしい。
家だと気兼ね無く飲めるため、ダメージがでかい時、彼は家で飲む。
「んじゃ。あとで。」
「うん。仕事終わったら連絡する。」
そう言って去って行く彼の背中を見つめる。思わず零れそうになるため息をギリギリで飲み込む。
彼、ーー真田ヒロと、私ーー成瀬ヒトミは大学時代からの友人である。大学生の時から彼に片想いを続けていた私だが、伝えることなど出来ず、友人の関係を保ったまま、お互い卒業し、離れ離れになった。そして、彼が好きなあの子ーー高橋サエは同じく大学時代から彼が片想いしていて、学校のマドンナ的存在だった。私と彼女は直接の関係はなくて、私が、彼が好いている女の人として知っているだけだ。そんな三角関係と言える3人は、私の2度目の転勤によりここ、コスモスというデザイン会社で出会った。