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リフレイン
「ちょっと、奏音ー! 早くしてよね。」
もたもたしていた私を親友の陽衣が急かす。
「あー。ちょ、ちょっとまって・・・っと。」
私は急いでノートや教科書をもって廊下を歩きだす陽衣を追った。
やわらかな初夏の日差しが廊下に差し込む、7月。
ついこの間までじめじめとした梅雨で憂鬱な気分だったというのに、季節の移り変わりの早さにただ驚くばかりだ。
おろしたての夏用の制服や廊下に差し込む日差しがもう夏なんだと感じさせる。
しばらくしゃべりなから歩いていると
「ねぇ、後ろ。」
そういって陽衣があごをくいっと動かした。なんだろう。
私は陽衣にうながされるように後ろを見てみる。しかし、そこには誰もいなかった。一体なんだったんだろうか。
「? どうしたの? 誰もいないじゃん。」
「あー、いなくなった。ほら、あの1組の稜がさ奏音の事見てたよ。」
陽衣はニヤリと白い歯を見せた。
「え・・・あぁ。」
私は言葉を濁した。
りょう。
リョウ。
稜。
わたしの、彼氏。
だった人。
「・・・ちがう、よ。」
「え? なんか言った?」
「・・・・・・ん。なんでもない。」
私は「んしょっと。」と荷物を持ち直した。
ちがうよ。
ちがうの。
あのね。
りょうは。
リョウは。
稜は。
私なんか、見てないよ。
ねぇ、陽衣。
気づいてないの?
稜は。
私のとなりの
陽衣を
見てるんだよ。