天使の歌
セティの過去
はぁはぁと荒い息を必死に落ち着かせ、俺は空き家の傍の茂みの後ろに隠れて、そっと様子を窺った。
向こうでは、いつもの面子が、長い木の棒を持って、走り回っている。
俺を、捜してるんだ。
天使と悪魔の混血(ハーフ)である俺は、悪魔の父と、天使の母と一緒に、辺境の貧しい村で暮らしている。
村の数少ない子供達の中心である少年――10歳のリーは、俺を虐める。
その彼の取り巻き4人も、金魚の糞みたいにリーに付いて回って、笑っている。
俺が虐められる理由は、混血(ハーフ)だから。
汚い。
穢れている。
そう侮蔑され、虐められる。
さっき木の棒で殴られた脇腹が痛んで、俺は小さく呻いた。
この村では、私的な喧嘩に神力を使うのは、禁止されている。
森羅万象の神霊(みたま)を使って相手を攻撃する事は、一歩 間違えば、相手を殺しかねないからだ。
(……いたた……。)
紅い目に掛かる長い前髪を 鬱陶しげに払って、俺は益々 小さくなった。
首を隠すくらいの長さの、白銀の髪、
ルビーみたいに輝く紅い瞳、
余り日に焼けない白い肌、
尖った右の耳、
漆黒の右翼。
母親譲りなのは、左の揉み上げ辺りから生えた、一房の金髪のみだ。
溜め息を ついた、その時。