天使の歌

ふっとスティは笑って、俺の口に水が入ったコップを当てた。

「飲め。」

「……っ。」

俺は必死に顔を背けて拒否するけど、スティは片手で俺の頬を掴み、口を開けさせると、水を流し入れた。

「……げほっ……。」

突然 液体が入って来た所為で上手く対処 出来ず、肺に水が入ってしまって、むせた。

「げほっげほっ。……ごほっ。」

「あー……面倒くせ。」

スティは苛々したように頭を掻き毟る。

「……ったって……解ったから……食べれば良いんだろっ。」

むせながら言うと、スティは驚いたように俺を見つめた。

「お前……切り替え早くね?」

「どうせ……ごほっ……拒否したら したらで、今みたいに無理矢理 飲ませんだろ。苦しいから、嫌だ。」

口では そう言いながら、俺は別の事を考えていた。

――絶対、逃げてやる。

忌み子と呼んだり。
お兄ちゃんって呼んでみろとか馬鹿に したり。
無理矢理 水を飲ませたり。
面倒臭いとか言ったり。

全部、全部、ムカつく。

……たった6歳の俺は、まだ儚い希望を持っていた。

天界に住む者 全員が、俺を忌み子と罵る訳ではないと。

きっと何処かに、俺を認めてくれる人が居ると。

そして、4年後。

10歳の時、俺は脱獄に成功した。

< 161 / 237 >

この作品をシェア

pagetop