産まれる。
私は、旦那の浮気を知っていた。
知っていて、見て見ぬふりをして
旦那を信じてた。
いつか、私の元へ戻ってくる。
確信はない、でも 信じていたの。信じていたいの。
だって、お腹の中の子供は
なにを隠そう旦那の子供なのだから。
とは言え、旦那は仕事もせず
いつまでたってもふらふらしている。
付き合っていた当初は
すごく優しくて、誠実で、私のことを一番に思っていてくれてた。
優しく抱きしめてもくれたし
「愛している」とも言ってくれた彼。
でも、彼の勤めていた会社がこの不況の中倒産してしまい
彼は見るも無残に一文無しに
妊娠している私を働かせ、彼自身働く気力を失っていた。
毎晩酒に溺れ、やったこともないギャンブルにまで手を出した。
浮気もした。
いつか
いつか、また
あの頃の彼に、優しい旦那に戻ってくれるものだと
私は信じていたの。
でもね、
私は、そんなに優しくも旦那思いの妻ではなかった。
今すぐにでも
浮気した女をこの部屋に連れてきて
長く金髪の髪の毛を引きちぎってやりたい。
綺麗に手入れいているであろう爪を
一枚一枚剥がして
旦那に見せ付けてやりたい。
私の爪は、もうボロボロで
ここ数年、ネイルもまともにしていなくて
スーパーのレジを打つ、
家のお皿を洗う、料理をする、掃除をする
そんな私のつかれきっていた爪。
ふつふつと募る思いは
憎しみへと変わっていた。
愛してるの、でも憎いの、すごく。
「あなたのパパ、最低な男だよ?」
そっとお腹を撫でてあげると
少し、ほんの少しだけ動いた気がした。
「あなたには、わかるのね」
私の見方は
この子だけだと、安堵する自分がいた。
優しい妻を
旦那を大切にしている妻を
演じていたのかも、しれない。