産まれる。
ママの微かな声が聞こえて
小さな耳をその声に傾けると
いつもとは違う会話がボクには聞こえてきて
身震いした。
パパ?パパの声なのかも
わからない、ボクはなんだか疲れていた。
「どうして・・・どうしてなの・・・・」
よく聞き取れないけど
ボクにはママの声だと理解できた。
ママが悲しんでいて、ボクも苦しくて
でもいつもと・・・・いつもと違う感覚で
意識が朦朧としてしまっていた。
「未熟児だと・・・・降ろせよ・・・」
「嫌よ・・・この子は私たちの子です・・・」
「ふざけるなよ?
とにかく降ろせって!」
「どうしてなの・・・どうしてそんな事言うのよ・・・・アナタ」
パパが大きな声でママを攻め立てていて
それが恐ろしくて
聞きたくなくて思わず耳を塞ぎたいくらい。
塞ぐことも、今のボクじゃ無理みたいだけど。
不快感、って言うのかな?
嫌な感覚がして、ボクはぐるりと回った。
パパは悪魔さんだ、だけど
いつかそれに気がつくかもしれないとボクもママも信じていて
それまでは我慢しなきゃいけないんだ。
ママ、その涙をボクに返して、喉が、すごく喉が渇いたよ。
ママ、ママ?
パパ、どうしちゃったの。
パパすごく怖いよ、ママも怖いよ。
怖い、喉がカラカラだよ。
ボク、産まれていいんだよね?
素晴らしい輝いた世界に
飛び出してもいいんだよね?
前に言ってたじゃない、ボクが大きくなったら
3人で遠くに行くって。
3人で、手をつないで
お散歩するって
美味しいママのお料理食べたいんだよ。
ママ、聞こえる?
ボクのコエが、サケビが。
ママ、ママ、ママママ、ママ。