紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
二人と一匹の間に、少しの沈黙が漂う。
やがて口を開いたのは、コートニーだった。
そのブラウンの瞳はうっすらと涙を浮かべる。
「話してくれて、ありがとう」
彼女はシドをギュッと抱きしめる。
ありがとう?
どうして?どうして、そうなる?
どうしてキミは、泣きそうなんだろう。
やっぱり、僕が怖いから?
オーランドは戸惑うが、顔には出さないように気をつけて、コートニーの言葉の続きを待つ。
「ごめんなさい。
私は、あなたのそばにいるべきじゃなかった。
あなたに頼るべきじゃなかった……。
あなたから私に近いにおいがすることは、なんとなく気づいていたのに……いつの間にかそんなこと忘れて、ただあなたのそばにいたいと思ってたの。
ごめんなさい」
いつも勝ち気な顔が、はかなげにゆがんでいく。
気づいていた?
そうか、悪魔ならシドと一緒、味方だからか。
でも、いつの間にか忘れていた?
ただ、そばにいたいと……?
オーランドは言葉を失って、ただコートニーを見つめた。
「オーランド、早く、遠くに逃げて。
日本のお友達を頼るのがいいと思う。
ナンシーはきっと、昨日あなたの存在に気づいてしまった。
実験体として切り刻むまで、地の果てまで追ってくるわ。
だって、彼女は私の身体を使って、悪魔とのキメラを作ることを生きがいにしているんだもの」
「……キメラな。
その話を聞いたとき、僕のことを早く言ってたら良かったな」
「あなたは悪くないわ」
コートニーはきっぱりと言った。
強い眼差しで、オーランドのスカイブルーの瞳を見つめ返す。
そうされると、胸の奥をギュッとつかまれたような気がした。
「少しの間だったけど、ありがとう。
私、ナンシーのところに帰る」
予期せぬコートニーのセリフに、今度はオーランドが驚く番だった。
「なんでや」
「私がおとりになれば、あなたが日本にエスケープするまで……最低でも、騎士団のおじさんと合流するまでの時間稼ぎができる」
「……アホか」
オーランドはため息をつき、コートニーの手をにぎった。