紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
一人で行かせるわけにはいかない。
「僕の昔話だけ聞いて、逃げんな」
「オーランド……」
「次は、キミの番やで」
オーランドがその顔をのぞきこむと、コートニーは首を横にふり、笑った。
「私は過去を振り返らない主義なの」
そう言い、オーランドの手を離させようとする。
(ムリしてんの、バレバレやぞ)
なんて頑固な女の子なんだろう。
そこまでして隠したい真実を、抱えているというのか。
悪魔を身の内に宿していることよりも、もっと恥ずかしいと思うほどの。
「なぁ、キミが黒魔術師だってことはわかってんねん。
まだ何か隠してるってこともな」
「…………」
「……だから……」
どうしてだろう。
いつものように、うまく言葉が出てこない。
つまらない冗談なら、次から次に出てくるのに。
どうにかして、コートニーを止めたいと思っている自分に戸惑う。
どうして、コートニーにはうまく優しくできないんだろう。
他の女の子にするみたいに。
たまに考えることはあっても、答えは出なかった。
でも、今ならわかる。
上辺だけで自分と接する人間には、自分も上辺の優しさで返せるんだ。
だけど、この子は違う。
隠し事はたくさんあったけれど、いつもわがままで……裏を返せば本音で、自分に接してくれていた。
無言で見つめあっていた、そのとき。
「……見つけたわよ」
二人の横顔に、冷たい声が浴びせられた。
ぎくりとしてそちらを向く。
そこには、先ほどオーランドの部屋を訪ねてきた女性……
錬金術師ナンシーが微笑みを浮かべて立っていた。
真っ赤なルージュを引いた唇が、不気味に弧を描く。
「ナンシー……!」
「お久しぶり、プリンセス・コートニー」