紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
漆黒の魔法陣は、二人を足元から飲み込んでいく。
ちょっと待て、昼間のこんなに人が多い場所で!?
オーランドは周りを見るが、ナンシーの魔法のせいか、誰もこちらに気づく気配はない。
(油断してもうた……!)
コートニーの手を引き、なんとか抜け出そうとするも、すでにひざ下まで魔法陣に飲み込まれ、びくともしない。
「シド!」
突然コートニーが片手に抱えていたシドを、魔法陣の外に放り投げた。
シドはふかふかの両足で、軽やかに着地し、主人を振り返る。
彼に、コートニーは叫んだ。
「オーランドの仲間を呼んで!」
「はぁ!?」
「彼を巻き込みたくないの!
お願い、シド!」
コートニーは自分の頭からヘッドドレスを、呆気にとられているオーランドからチョーカーをむしりとり、シドに投げ渡す。
「コートニー、でも……」
それを受け取ったシドの足下に、黒い煙が立つ。
少しアスファルトを削ったそれは、ナンシーの攻撃。
悪魔の嫌いな、ハーブのニオイのする小さな爆弾だった。
「くさっ!
しょうがない。コートニー、生きてろよな!」
シドはそのニオイから逃れるように、走り去った。
それは、クマのぬいぐるみとは思えない速さだった。
「仕方ないわね……」
ナンシーはつぶやく。
その表情には余裕があった。
契約を結んだとはいえ、相手は小悪魔。
危険を犯して白魔法師に接近し、援軍を連れてくるとは、考えもしないのだろう。
コートニーも、半分は賭けだった。