紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「オーランド、手を」
コートニーはオーランドに小さな右手を差し出す。
「もう、抜け出せないわ。
一緒に行こう」
「どこへ……」
「さあ、それはナンシーにしかわからない。
でも大丈夫。
私が、なんとかするから」
最後のセリフは、消えそうなくらい小さく聞こえた。
そのときすでに、彼らは耳まで闇に飲み込まれていたから。
移動魔法独特の、突風に巻き込まれたような息苦しさ。
それはほんの一瞬で、閉じていた目を開けた二人が見たのは……
一面に広がる、緑の丘だった。
「アフィントン・ホワイトホースをご存知?悪魔と人のキメラくん」
ナンシーが言った。
キメラくんて……勝手にセンスのないあだ名つけんなや。
と、突っ込んでいる場合じゃない。
彼等の足下にある白い地面が、ここが本当にアフィントンであることを物語っていた。
緑の草の中に線を描く白い地面は、上空から見ると、痩せた白馬のように見える。
イギリス版ナスカの地上絵と呼ばれる、有名なパワースポット。
……もちろん、一般人にとっては。
「……血のニオイがする……」
オーランドは鼻を押さえた。
「そう、私たちの祖先のドラゴンがここで白魔法師に殺され、血を流した。
そのあとには、草木が生えない。
赤黒いあとを石灰で不細工に染めたのが、この跡なの」
「知ってるわ……騎士団が、白く染めたんやな。
でもそれは、本当に遠い昔のおとぎ話やろ?」