紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
古代の悪龍の血のニオイは、白魔法では消しきれないらしい。
色々なものが混ざった、不快なニオイが鼻を突く。
「すべてがおとぎ話……でも、ないのよ。
あなたも知ってるでしょう?黒魔法師と呼ばれる者の存在を」
オーランドは、隣を見た。
黙ってナンシーをにらむコートニー。
その唇が、震えていた。
「古代から続く、黒魔法師の血族。
ドラゴンが殺されても、大規模な魔女刈りにあっても、その血は密かに受け継がれてきた」
どくん、どくんと不吉に高鳴る鼓動。
そしてナンシーの真紅の唇が、ついに。
「その王族の血を継ぐプリンセスが、そこにいるコートニー嬢よ」
……核心を、暴いた。
「……黒魔法師の、王族……」
オーランドは自分の喉がカラカラなことに気づいた。
コートニーが黒魔法師であることは、なんとなく気づいていた。
ランスロット曰わく、邪悪な黒魔法の血族の末裔がイギリスにいることも……。
だけどそれが、コートニーだったなんて。
「は……はは、ワガママやと思ってたら、ほんまもんのお姫さんやったとは……」
「…………」
コートニーは否定しない。
ただ、ずっとブラウンだと思っていた瞳が、赤紫色に変色した。
中央の虹彩が、花を咲かせたように金色に光る。
彼女の周りに生ぬるい風が吹き、スカートを膨らませているパニエがさわさわと音を立てた。
ブラウンの巻き毛は、あっという間に真っ黒に。
黒いゴスロリ衣装に、端正な顔立ちのビスクドールのような彼女は、たしかにプリンセスの風格を漂わせていた。