紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「ということは、彼はキミにも手を出した?」
平然を装って聞くと、コートニーはぶるりと震えたようだった。
自分の腕をさすりながら、忌わしい記憶を取り出すように、眉を寄せる。
「もー、毎日毎日寒かったわよ。
僕の可愛いコートニー、キミはスイートだねって、手の甲にキスするのよ?」
それは、普通の女の子なら喜んでしまうのでは?
なんたって、相手はあのプリンス・カートだ。
「私、ああいうナルシスト、大嫌い!」
……コートニーがこういう子で、良かった。
「コートニーはこれでもプリンセスだから、プリンスが甘言に魔力を込めているのを感じて、跳ね返しちゃうんだよ。
まあ、相手がどんな美青年でも、自分をさらってキメラにしようなんてやつの言葉に乗せられるバカはいないよな」
シドがまたまた解説してくれた。
「ふーん。彼の魔力なら、キミを洗脳することくらいたやすいんじゃないんかな」
「本気で落とす気はないのよ、きっと。
でも同じ王族として親しみは感じてるのかしら?
ううん……いなくなると困るから、甘やかすのよね。
変なやつの考えることは、よくわからないわ」
オーランドも一緒に考えてみたが、やっぱりわからない。
コートニーはため息をついて、うつむいた。
「帰りたいなあ……」
その言葉は、オーランドの胸にも切なく響く。
「おばあさまは、『復讐なんて意味がない。歴史は歴史として受け止めるべきだけど、現代にまで恨みをひきずるなんてばかばかしい』って、私に教えてくれたわ。
おばあさま、元気にしてるのかしら」