紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
オーランドは答えられなかった。
カートやナンシーが、コートニーの祖母を邪魔者として消してしまった可能性もあるし、王族の残りとして見逃したかもしれない。
だから、適当に『きっと元気にしてるよ』なんて言うわけにはいかなかった。
コートニーもそれはわかっているようで、顔を上げたときにはその瞳に涙が浮かんでいた。
「ロンドンなんて嫌いよ。
ここは雲も厚いし、空気は悪いし、水もよどんでる。
スコットランドに帰りたい」
いや、もう帰れないだろう。
彼女の生家は、きっとカート側に見張られているはず。
それもわかっていて、彼女は帰りたいと言う。
同じスコットランドで産まれても、北のはじっこと南のはじっこで育った二人。
言葉も違えば、立場も全く違う。
だけどオーランドは、コートニーに、自分と近いものを感じずにはいられなかった。
「……コートニー」
オーランドはコートニーの小さな手をとる。
コートニーは驚いた顔で、オーランドを見つめた。
「本気で、僕についてくる気はあるか?」
「え?」
「逃げようや」
ブラウンの瞳が、まん丸くなる。
「……あなたこそ、本気で言ってるの?
カートだけじゃなく、騎士団や組織を敵に回すことになるわよ?」
「別にええよ」
だってキミは、正体不明な僕におびえたりしないから。
僕の寂しさを、理解してくれるから……。
「そんな、あっさり……」
コートニーは困ったような顔で眉を下げる。
「ええやんか。僕は半分悪魔や。
いつか実験体として、切り刻まれるかもしれん身や。
そんなら、主人の黒魔法師に仕えた方が、ええやろ」