紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
二人は手をつなぎ、ロンドンの街を歩く。
途中で現金を引き出せるだけ引き出し、コンビニで食料を調達。
街外れまで歩き、安いブティックホテルにチェックインすると、ようやく一息ついた。
「たばこのにおいがする。嫌なにおい」
コートニーはシドを背中から下ろすと、魚の缶詰を開け、彼に差し出した。
シドは「俺を無視して、いちゃいちゃしやがって」とぶつぶつ言いながらそれをプラスチックのフォークで食べる。
珍しい光景に笑いながら、食事を終えると、シドは一応ホテルの周りを見回ると言って、少ししか開かないようになっている窓から外へと出ていった。
「SPみたいやな、クマくん」
「彼はともだちよ」
「へえ」
……微妙な沈黙が落ちた。
ホテルマンに顔を見られずに済むので、このようなホテルに逃げ込んだが、当然ベッドはひとつしかない。
そして、恋人どうしがここへ来る目的も、普通はひとつ。しかし。
(……微妙……)
好きだとも伝えていないし、伝えられてもいない。
でも、お互いの気持ちはわかっている……と思う。
とても微妙な自分たちの距離に、オーランドは戸惑った。
(もしかしてクマくん、気を使って僕らを二人にしたんか?
なんもせんのは、失礼かな……)
キスの先に進むべきか否か?
もんもんとしていると、コートニーが立ちあがる。
「先にシャワー浴びていい?
疲れたから、寝る」
「ん?ああ、どうぞ」
「のぞかないでよ」
「するか!」
反射的に答えると、コートニーは「あっそ」とそっけなく返し、バスルームへ消えていった。