紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~


(悪魔が……!)


悪魔の力が、前面に出ようとしている。


それは金色のオーラを、黒く染めていく。


「なんで……なんで普通に生きられへんのやぁぁぁっ!」


オーランドの怒りが、右腕からアーロンに叩き付けられる。


金と黒の混じったオーラの腕を、鋭い風が切り裂き、アーロンに届こうとするのを防ぐ。


二つの力はせめぎあい、行き場をなくし、まるで竜巻のように、天高く昇っていった。


「オーランド……」


兄弟なのに、どうして戦わなければいけない?


(ううん、兄弟だからこそ……許せないことがあるんだわ)


「コートニー、あれ!」


雑魚精霊を防いでいたコートニーに、シドが声をかける。


そちらを見ると、壮大な兄弟げんかの横で、ランスロットの腕が懐に入っていた。


そこから取り出されたのは、コートニーも一度見たことがある、大きな銃。


それが銀の弾丸を吐き出す前に、コートニーは駆けだしていた。


「シド、お願いっ!」


コートニーがオーランドに寄り添い、魔法陣を呼び出す。


ランスロットの弾丸は、完成する前のそれを貫いた。


「きゃああっ!」


「コートニー!」


コートニーの体が後方に吹き飛ぶのを見て、オーランドは右腕を薙ぎ払う。


彼の力は一度その腕を離れ、アーロンの力を飲み込み、消滅した。


慌ててコートニーの元へ駆け寄る。


「……!」


コートニーの体は、傷ついていなかった。


代わりに……


「シド……!」


彼女の両腕に抱かれるようにしていたシドに、銀色の弾丸が突き刺さっていた。


彼が、コートニーを守ったのだ。


「……コートニー……」


シドのふわふわの体は、その先端から細かな粒子になり、空気へ還っていく。


「シド!」


コートニーの大きな瞳に、涙が溢れた。


悪魔に『死』という概念は存在しない。


あるのは、『消滅』のみだ。


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