紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「きゃあっ!」
コートニーの悲鳴が聞こえ、振り返る。
そこには、ナンシーの操る死者に両腕を捕えられたコートニーが。
「コートニー!」
手を出すなと言われたが、ぼんやり傍観しているような彼女ではない。
そちらに注意を削がれた瞬間、黒豹の牙が彼を襲った。
「ちっ……!」
なんとか噛み裂かれる手前でそれを避けるが、腹の皮を削られてしまった。
黒豹の牙に、自分のTシャツの切れ端がついているのが見えた。
「……もう個人的な戦いは必要ないね。
帰ろうか、ナンシー」
「ちょっ、待てや!
お前らには騎士道精神ちゅうもんがないんかい!」
主人の決闘中に、人質をとるなんて、卑怯じゃないか。
「騎士道?そんな精神、僕たちにあるわけないじゃないか」
……そうだった。
あまりに優雅な所作に忘れてしまいそうになるけれど、相手は貴族でも本当の王室の血筋でもなく、黒魔法師だった。
オーランドは今更腹の傷に痛みを感じ、顔をしかめる。
黒豹は何度も猫パンチかましてくるし、それを避けるのに必死で、コートニーになかなか手が届かない。
ぽたぽたと、血がバルコニーに落ちた。
「じゃあ、あとは任せたよ。
一人で帰って来られるよね?」
カートが言うと、黒豹がしっぽを振った。
……完全になめられてる。
実力の差があるのは確かだが、とてもしゃくだ。