紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「わっ、あっ、ああっ!」
バルコニーの手すりに上り、なんとか攻撃を避ける。
また頭に上れれば勝機があるかもしれないが、黒豹も学習するのだろう。
まったく頭を下げようとしない。
どうしようと思っていると……
「あ」
「えっ」
ずるりと、オーランドの足がすべった。
がくんと、二人の視界の天地が反転する。
落ちる────。
全身の血管が縮まり、息が止まる感覚がした。
すると、思わずぎゅっと抱きしめたコートニーが、腕の中で叫ぶ。
「いいいいいいい移動してええええええっ‼」
悪魔の力が、コートニーに反応する。
彼らの頭上……地面と平行し、大きな水色の魔法陣が現れたと思うと、二人は重力に任せ、その中へ飛び込んだ。
つま先まで飲み込んだと思うと、魔法陣は消える。
あとに残されたのは夜の闇と、白魔法師とカートたちだけだった。
「……消えちゃったね」
カートはバルコニーから下を見下ろしながら、「やりすぎたかな」と独り言を言った。
「追わなくても?」
「まあ……いいだろう。
少しの間だけでも、楽しむといいよ。
どうせ、彼らに待っているのは僕が用意する絶望だけなんだから」
妖艶な笑顔を見せたカートの内ポケットには、例のペンタグラムがある。
それさえあれば、世界は自分たちのものだ。
ナンシーは頬がほころぶのを抑え、カートと共に夜の闇に帰っていった。