紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
『どこ、ここ……』
自分で使った魔法なのに、コートニーにもここがどこかはわからないらしい。
手がかりも何もない。
あるのは、足元に広がる野原に、澄んだ湖、少し離れたうっそうと茂る森。
スマホでもあればGPSが使えたかもしれないが、その電波が届くのかさえも、怪しかった。
民家はなく、オーランドは日本の忍たちがひっそりと暮らしていた村の周囲を思い出す。
『にしても、寒いな』
いくら日が昇ったとしても、今は秋。
全身ずぶ濡れで、二人は震えた。
そのとき目に入ったのが、この小屋だ。
外壁に蔦が這いまわり、完全に自然に溶け込んでいたので、見逃すところだった。
丸太を組んでできたようなこの小屋は、そうとう古いものだと思われる。
誰かが昔、住んでいたのだろうか。
もしかしたら、エルフとか、ドワーフとか。
現代ではもういなくなってしまった妖精たちの姿を想像しながら、そっと小屋の内部に忍び込む。
『あら……』
コートニーは声を上げた。
濡れた巻き毛のまま、朝日に照らされた部屋を見渡す。
それは白雪姫のおとぎ話にでてくるような、小さく質素な家具が少しだけ置いてある、素朴な部屋だった。
どういった経緯があったのかはわからないが、ベッドまでそのまま置いてある。
さぞかしカビ臭かろうと警戒したオーランドだが、側面の窓と、天窓の両方から陽光が差し込むそのベッドは、不思議となんの匂いもしなかった。
ブティックホテルのベッドより、安らげる気がした。
『……寝ても、いいんかな』
『いいんじゃない?きっと、いなくなってしまった妖精の別荘だったのよ』
『7人のドワーフが来て、見つかるかも』
『私が白雪姫ってこと?
そうしたら、あなたがキスをして起こしてね』
二人はずぶ濡れのまま向き合って、くだらない冗談に笑った。