紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
オーランドは怒られるのを覚悟で、そっとコートニーに腕を伸ばす。
背中から抱きしめると、漆黒の髪がさらりと流れた。
「コートニー」
「な、なによ」
なによって。
声、震えてるくせに。
「なあ……契約の代償、今いただいたらあかんかな?」
「えっ、きゃ……っ」
耳元でささやき、その後ろにキスを落とす。
首筋まではった唇は、おそらく誰も触れたことのないであろう白いうなじに、小さなアトを残した。
たしかに渇いた人の皮膚なのに、蜂蜜みたいに甘い気がする。
初めて感じた甘い痛みに驚いたコートニーは思わず、自分に絡まるオーランドの腕に爪を立てる。
「ちょっと……!
あなた、ついさっきまで紳士だったじゃない!どうしちゃったのよ!」
「えー、コートニーが可愛いのが悪いんやもん。
それに僕、紳士ちゃうもん。ごっつい悪魔が付いた、普通の男の子やもん」
「可愛い子ぶらないでよっ!」
全部くれるって言ったのに。
自分でキスまでしたのに。
あの強気なお姫様は、もうどこにもいないみたいだ。
「そっか……うん。
じゃあ、今はあきらめるわ」
「……」
「……なあ。キスだけなら、ええやろ?」
「あなた、あきらめてないんじゃ……」
「頼む。こっち向いてや、コートニー」
怖がらせるようなことはしたくないけど、そろそろ我慢も限界。
キミが、ほしくて……。
なるべく優しい声で頼むと、コートニーはゆっくりと、体を反転させた。
その顔は真っ赤で、やっぱり涙目で。
ああ、この子はきっと、本当に僕のことが好きなんだろうと、うぬぼれる。