紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「あとは僕の血を……捧げればいいんだね?」
魔法陣を見下ろしたナンシーに言う。
彼らの足元の魔法陣には、例のペンタグラム、そしてコウモリの羽だの、クモの足だの、羊の心臓だのが決まった位置に置かれている。
その儀式は、ペンタグラムを手に入れた時から今日まで、ずっとナンシーと研究してきたもの。
ときには先祖の残した文献を探しに、イギリスじゅうを飛び回ってきた。
……失敗は許されない。
この儀式を失敗したとき。それはカートの死を意味する。
決められた手順を順守しなければ、悪魔は力を貸してくれるどころか、術者を滅ぼしてしまう。
「ナンシー、ナイフを」
差し出した右手に、ナンシーがナイフを渡す。
手首は、あのキメラの男の攻撃を受けた時、不覚にも傷ついてしまった。
しかし、そんなささいな傷はカートの気にするところではなかった。
今まで負ってきた傷に、比べれば。
ナイフを左手首にあて、すっと引く。
玉となって溢れた血が、線を引いてペンタグラムに落ちていった。
その途端、魔法陣の中を黒い風が吹き荒れる。
それはカートの漆黒の髪を、容赦なく揺らした。
ああ……もうすぐだよ、父さん、母さん。
あなたたちを殺した白魔法師に復讐する時がきた。