紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
『……ならぬ。
お前には、まだ一人、従者が残っている』
ドラゴンは、倒れたままのナンシーの方を見た。
『一人でも家臣が残っているならば、王は生きるべきだ』
ドラゴンはそれだけ言うと、ふわりと地上から舞い上がった。
紺碧の翼が、強い風を起こす。
口から放出された冷気は、周辺の炎をすべて、無に帰した。
「……助かったんだわ……」
アリスが涙を浮かべ、町の方を見る。
カートはふらふらとナンシーの方へ歩み、ひざをついた。
もう、すべての気力が失せたように感じられた。
『娘よ』
ドラゴンの声がして、空を見上げる。
『私を召喚した、代償をいただこう』
ああ、やっぱり。
娘と呼んでも、しょせんは遠すぎる子孫。例外はないのね。
「コートニー……」
オーランドの手が、自分の手を引く。
「僕を、代償に。
僕を差し出したらええ……」
全身の気力を振り絞り、オーランドは上体を起こす。
ああ、そんなことを言うから。
涙が出てしまうじゃない。