紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「どうしたんですか」
アパートのあちこちから、悲鳴を聞きつけた人たちの顔がのぞく。
しかし、そう声をかけたのはオーランドただひとり。
「この子が……少し目を離しただけだったのに……!」
女性はぼろぼろと涙を流しながら、嗚咽を漏らす。
その腕の中の体からは、すでに呼吸の音がしなかった。
「少し目を離しただけ……?」
「そうよ、今朝まで元気だったの。
買い物に出かけようとしたら、知り合いにあって……
話をしてたら、いつの間にかいなくて……
急いで探したら、あんなところに……!」
女性の話はわかりづらかったが、おそらく女児の母親だろうとオーランドは判断した。
そして母親が指差した『あんなところ』に視線をやると、アパートとアパートの狭い隙間に、エアコンの室外機がぽつんと置いてあった。
そこには不自然な黒いシミ。
やがてアパートから母親の知り合いらしき住人が出てきて、警察と救急車を呼んだ。
オーランドはその場を離れ、ううんとうなる。