紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「……あかん、困ったな……」
「……やっぱり、死者がやったのね」
コートニーも眉をひそめ、オーランドを見上げる。
「それだけやない」
オーランドは、首を振る。
「わからんか?」
「なにが?」
「……すでに、昼間動ける死者が、完成してしまったということや。
ナンシーの実験は、着実に成果をあげているらしいで」
オーランドの低い声を聞き、ハッと目を見開くコートニー。
普通死者は、夜動きまわるものだ。
少なくとも、今まではそうだった。
彼らの弱点は日の光と、炎。
それらに焼かれると、灰になってしまう。
しかし今の女性の話では、今朝まで生きていた女児が、その場で連れ去られ、血を抜かれ、放置されたという。
すなわち、明るいうちから歩き回る死者が、この国にいる──。
「僕の考えすぎならいいんや。
死者じゃなく、他の黒魔術師の仕業かもしれん」
「……顔色が悪い人を見たら、気をつけなきゃね」
「そういうこっちゃ」
オーランドは女児が倒れていた方向に向かい、目を閉じた。
両手を合わせ、軽く頭を下げる。
もちろんこれも、日本の風習から来ているものだ。
そうとは知らず、コートニーはそれを、組織独特の儀式なのだと理解し……。
オーランドの横で、彼女もまた、見よう見まねで手を合わせた。
自分の着ている黒い服が喪服に思えたのは、それが初めてだった。