紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
◇謎の少女
ロンドンの街を、彼女は走る。
初めて来たロンドンだが、バッキンガム宮殿も国会議事堂もゆっくり見ている余裕はない。
手軽なレストランがあまりないこのエリアは、深夜になると観光客の姿もほとんど見かけなくなる。
彼女はとにかく川沿いに走り、ある寺院の入り口に立った。
白いゴシック様式の大きな寺院。
かの有名な、ウエストミンスター寺院だ。
しかし彼女は、そんなことは知らなかったし、どうでも良かった。
ただ、追っ手から隠れられる場所を探していたのだから。
当然、開放時間は過ぎているので、門は硬く閉ざされ、警備員がうろうろしている。
しかし……
(ただの人間なんか、怖くないわ)
彼女は物陰に隠れ、息を整える。
そして……。
その茶色の目が見開かれた途端、彼女の目前に薄い水色に光る魔方陣が現れた。
彼女はその魔方陣に体当たりする。
すると次の瞬間には、彼女は寺院の中にいた。
「アホほど豪華ね」
はっきりした位置はわからないが、礼拝堂か何かだろう。
昼間なら光が差し込み、さぞ美しいだろうと思われるステンドグラスに、天井の繊細な彫刻。
何より、高貴な死者の魂が安らかに眠っているのを感じる。