紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
塔の中には、ほとんど人がいなかった。
たまに見かける人間には、ほとんど見覚えがある。
「騎士団が来とるやないか。
僕らを呼ばんでもよかったんちゃうか?」
「彼らは下っ端の使い走りよ。
人払い用に配置されたんでしょ、きっと」
アリスの言うことは正解らしかった。
彼らは塔のあちこちを封鎖していたが、オーランドたちが通っても、何も言わなかった。
きっと、彼らは組織のメンバーの顔を把握しているんだろう。
そして彼らが展望通路の端に着いた途端、爆発音がした。
「クライドだわ!」
アリスが言い、オーランドがうなずく。
展望通路に駆け出すと、そこには死者たちとクライドが、既に戦いを始めていた。
死者のひとりが、焼け焦げたように真っ黒になってその場に倒れている。
クライドはこちらに背を向け、向かってくる何十人もの死者に、一人で立ち向かおうとしていた。
「くっそ、めんどくせえ!」
クライドは舌打ちし、片手を突き出す。
そのたくましい腕の周りを火の精霊がくるくる回ると、彼の手の平の前に、赤く輝く魔方陣が現れた。
「うらっ!」
クライドの低い声と共に死者へ向かうのは、灼熱の炎の弾丸。
それは本物の弾丸のような速さで飛び、死者の体を跳ね飛ばした。