紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「死んでもこんな豪華なところで眠れるなんて、あいつらとはえらい違いだわ」
深夜の暗く冷えた礼拝堂で、彼女は祈りを捧げもせず、悪態をつく。
「清浄な空気に満たされてる……。
ここならあいつらも簡単には入ってこられないんじゃない?」
「でも、魔法の痕跡を残してきちゃったぜ。
そのうち見つかるよ」
子供のような高い声が、彼女の背負っているテディベアの形のリュックからした。
「うるさい!」
彼女は背負ったままのテディベアのお尻を、ぺしっと叩く。
「いてっ!
なあ、もう帰ろうよ。逃げ切れるはずないんだ。
おとなしく言う事を聞いていれば、あいつらだって、お前を悪いようにはしないはずだよ」
背中できいきい騒ぐテディベアに、彼女はぴしゃりと言い返した。
「イヤよ!
悪いようにはしないって言うけど、もう既に悪いようにされてるじゃない!
あいつらは私を閉じ込めて、全然外に出してくれなかったんだから!」
「お、大きな声を出すと、見つかっちゃうよ」
「最初からアンタが黙ってればいいのよ!」
誰もいない礼拝堂に、2人の声が反響する。
その間に入るように、ぎいいと嫌な音がした。
どこかの入り口の重い扉が、開けられたような……。