紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
だけど、本当はなにもわかっていなかった。
だって、経験したことがないから。
もしオーランドが自分にキスをしてくれたら。
それは自分の呪いを解いてくれるかもしれないという期待に彩られた、漠然としたイメージにしかならない。
実際の感触は、想像の遥かかなた。
(オーランドが王子様で、私がお姫様だったら良かったのに。
そうしたら、二人はずっと幸せに暮らせるのに)
コートニーは、泣きそうになった。
鼻の奥と頭と、胸が痛む。
オーランドと自分の間の壁は、きっと誰にも越えられない壁。
そんな彼に恋をしたって、報われるわけない。
そう、恋、なんだ。
この不毛な想いに、あえて名前をつけるならば。
(それ以前に相手にされてないし!)
コートニーはまぶたを閉じて、寝たふりを続けた。
鼻孔に届くのは、オーランドの香水『Let it rock』。
その香りが、余計にコートニーの涙を誘った。