紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
◇Unknown
昔話
(……熱い……)
湿っぽい空気が、強い魔力によって霧になり、オーランドの体にまとわりつく。
冷たいと思う間もなく、その水分はぐるぐると渦巻く魔力の熱で蒸された。
この感覚を、オーランドは覚えていた。
閉じていたまぶたを、ゆっくりと開ける。
すると目の前に広がったのは、岩ばかりの背景。
その真ん中で光を放つ、魔法陣。
上に立つのは、兄に似た金髪の男。
そして……
(僕や……)
5歳くらいの、自分だとオーランドは悟った。
(これは、夢やな)
覚えている。
忘れたくても、忘れられない。
あれは、過去の自分と、まだ若かった頃の父親だ。
どうしてここに来たのかも、あの魔法陣でこれから何が行われるのかも、オーランドはわかっている。
(夢やてわかってても、覚めんもんやなあ)
オーランドはこの洞窟から逃げたかった。
『嫌や、怖い。
お父ちゃん、やめて』
小さな自分の願いは、父親には届かなかった。
(見たくない……はよ覚めろ)
オーランドは耳をふさぎ、まぶたを閉じた。
もう何度、同じ夢を見ただろうか。
まるで、見えない何かの力が、過去をオーランドに忘れさせまいと、定期的にプログラミングしていったかのように……
あの小さなオーランドが今の姿になるまで、1年に1度は、同じ夢を見た。
『大丈夫や、オーランド』
指の隙間から、父親の声が聞こえた。
(もうええ、やめろ)
オーランドは頭の中で怒鳴る。