陥落KISS
「なあ?」
ふいに声をかけられて、驚愕してゴミ袋を落としそうになった。
「なんですか?」
「おたく、欲求不満なんじゃね?」
はあ?
思わず素っ頓狂な声をあげそうになった。
いきなり、なんでそうなるわけ?
意味がわからない。
「1週間ほど前、彼氏と喧嘩しただろ」
まさか、聞かれていたとは。
でも、大声でわめき散らかせば、嫌でも聞こえてしまうというものだろう。
きっかけは、とるに足りない些細なことだった。
けど、今までの溜まりに溜まっていた不満が、ついに大噴火を起こしてしまったのだ。
双方ともに言いあって、罵しりあった。
一方的に私が悪いわけじゃない。
かといって、彼氏が悪いわけでもない。
ごめんの3文字は、まだ言えていない。
日にちがたてばたつほど、言いだしにくくなるとわかっているのに。
でも、と憤然と言い返そうと振り返ると。
後頭部を押さえつけられた。
その拍子に、手に持っていたゴミ袋がするりと抜け落ちる。
さらうように唇を奪われた。
だけど、それだけでもう、陥落だった。
キスだけで、いとも簡単に落ちるなんて。
悔しい。
なのに。
「続きも、する?」
耳許でささやかれる。
ノーと虚勢を張るなど、できなかった。
【完】