桜廻る
すると……ほんの少しだけ、白くて細長い猫の尻尾が、雅の視界に入ってきた。
それは素早く暗い影の中に入っていき、見えなくなってしまった。
「何だ、猫……」
雅はほっと息をつくが、あの声がやはり気がかりだ。
夢で見た時の声と、同じ。
首をかしげながら、雅は猫がいなくなった場所を見つめた。
「……雅?」
土方が、後ろから急に雅に声をかける。
いきなり走り出したから、心配したのだろう。
「あ、大丈夫です」
何でもないというように、雅は首を振って見せる。
そうか、と土方は一言言うと、リビングへ戻って行った。
その後を追うように、雅も歩き出すが……。
やはり気がかりで、再度後ろを振り返る。
しかしそこには、いつも通りの風景が広がっているだけだった。
疑問に思いながら、雅はベランダの扉を閉めた。