桜廻る
シュル、シュル……。
帯を結んでいく。
今日は夏祭りだ。
それと同時に、夏休みの始まり。
『雅……。浴衣は、女の子の一張羅なのよ。和服を着ると……お母さんはね、何だか安心するの』
『そうなのー?』
『ふふ。まだ分からないかしら?だからね、これ……いつか雅も、着れるといいわね』
遠い昔の出来事。
うっすらと覚えている、母との会話。
「お母さん……」
体も大きくなり、その時にくれた母の浴衣を、雅は身に付けていた。
母が、和服を大切にしていたのはよく覚えている。
黒い生地に、ピンクや紫の小さな花が散りばめられた、浴衣。
その浴衣を着る為に、雅は何度も、帯を自分で結ぶ練習をしていた。
雅は長い髪の毛を櫛で梳かし、クローゼットに入っていた簪でまとめ上げた。