桜廻る
雅はそんな土方を見やり、そのまま自分の部屋へと向かった。
ガチャッとドアを開いて、中に入っていく。
荷物を置くと、机の上にある、一枚の写真が目に入った。
「ただいま……お母さん」
写真の中で綺麗に微笑む、その女の人。
声も聞いた事がない。
ただ知っているのは、笑顔が綺麗だという事だけ──。
雅の父は今、東京から大分離れた岩手県で仕事をしている。
……一人なのだ、雅は。
学校でも、家でも。
月に一度の仕送りで、雅は高校生活を送っている。
自ら東京の高校に通いたいと言ったが、そこは想像していたのとはまるで違う世界であった。
雅は唇をかみ、荷物を床に置くと、土方がいる所へと向かったのだった。