桜廻る
それを見るなり、雅は柵を越え、ストンと身軽に足を着く。
足を置いている幅は──たったの30センチ。
ゆっくり息を吸うと、雅は、足を前へ前へと動かし始めた。
数センチ、つま先がはみ出す。
『死にたい』なんて気持ちとは裏腹に、雅の心音は早まっていく。
ドクン、ドクン……
…と、その時だった。
「お前、何をしている?」
そんな男の声が、聞こえてくる。
雅はビクッとして、思わず後ろに下がった。
カシャンと、背中が柵にぶつかる。
そして足音がだんだん、近付いてくる。
驚いて固まっていると、ぐいっと右腕を掴まれた。
「何をしようとしていた?」
ぐっと、また唇をかむ。
(どうして邪魔するの?)
腕を振り払おうとするが、男は頑として離さない。