桜廻る
「……近藤さん?」
雅がそっと声をかけると、近藤はハッとして顔を上げる。
そして、曖昧な表情を浮かべた。
「何かあったんですか?」
続けて聞くと、近藤は、はーっと長いため息をついた。
「これからの新選組について、永倉や原田と意見が食い違ってしまった」
「え……?」
「また、やってしまった。あいつらが何を考えているか……何となく分かる」
近藤は首にかけていた手拭いで、軽く自分の汗を拭う。
「最初は、試衛館育ちの者が何人かいた。
……それが今じゃ、六人だ。それなのに、四人になるかもしれない……。だけど、ここから先は危険だから、これはこれでいいのかもしれない……」
雅は思い出した。
斎藤が小さく言った、“また一人か”という言葉。
ぽつり、ぽつりと、仲間がいなくなっていく。
その意味がやっと分かった。
「……流山(ながれやま)に陣を置こうと思っている。土方には、これから話すつもりだ」
近藤はそれだけ言うと、立ち上がって、その部屋を後にした。