桜廻る
「泣いて…ません…」
「…嘘付け。ほらよ」
無造作に、男は何かを取り出して雅に渡す。
差し出された物は、ハンカチでもタオルでもなかった。
「あ…。ありがとう、ございます…」
市松柄の手拭い。
この男の人、珍しいのかな…
なんて感じながら、雅は濡れた目元を拭う。
涙を吸って染みが出来た手拭い。
「ちゃんと、洗って返しますね」
そう言いながら、雅はやっと、男の顔を見た。
「……⁉」
…しかしすぐに、目を丸くする。
そして、男の服装を、上から下までまじまじと観察した。
「…あ?どうした?」
「え、えっと…。いや、その…」
驚きすぎて、言葉が出ない。