桜廻る




そして小さな紙袋を、また乱暴な手付きで、雅に投げつける。


落とさないように、慌ててキャッチする雅。





「こ、これは?」


「俺はこう見えて、薬売りなんだ。それは俺ん家お手製の石田散薬 (いしださんやく) 。怪我に打ち身に病はもちろん、恋や勉学、どんな物にでも効く代物だ。どうだ?いいだろ?」






急に商売を始める、何とも口の達者な男だ。





「水に混ぜてもいいが、酒と一緒に飲めば効果は倍増する」





ぽかんとしている雅をよそに、男の口から、次から次へと言葉が飛び出す。


困ったように、雅は紙袋を男に返そうとした。





「え…っと…。い、いいで…」


「金はいらねぇよ。さっき泣かせた詫びだ。持っとけ」





男はそれを避けながらそう言うと、カゴをまた背中にしょい、雅に背を向けた。


雅は、残った手拭いと紙袋を見つめ、また男に視線を移す。




< 7 / 419 >

この作品をシェア

pagetop