桜廻る
そして小さな紙袋を、また乱暴な手付きで、雅に投げつける。
落とさないように、慌ててキャッチする雅。
「こ、これは?」
「俺はこう見えて、薬売りなんだ。それは俺ん家お手製の石田散薬 (いしださんやく) 。怪我に打ち身に病はもちろん、恋や勉学、どんな物にでも効く代物だ。どうだ?いいだろ?」
急に商売を始める、何とも口の達者な男だ。
「水に混ぜてもいいが、酒と一緒に飲めば効果は倍増する」
ぽかんとしている雅をよそに、男の口から、次から次へと言葉が飛び出す。
困ったように、雅は紙袋を男に返そうとした。
「え…っと…。い、いいで…」
「金はいらねぇよ。さっき泣かせた詫びだ。持っとけ」
男はそれを避けながらそう言うと、カゴをまた背中にしょい、雅に背を向けた。
雅は、残った手拭いと紙袋を見つめ、また男に視線を移す。