桜廻る
「あ、あの…!」
思わず大きな声を出すが、何を言えばいいか分からない。
男は振り返り、不思議そうに雅を見つめる。
えっと…と、
雅はしどろもどろに口を動かした。
「わ…私、桜川雅って言います!」
結局出た言葉は、これだった。
そんな雅を見やり、男はまた微かに笑う。
「……俺は、土方歳三(ひじかたとしぞう)だ」
そんな声が、遠くから聞こえてきた。
(土方さん…か…)
心の中でそう呟くと、手拭いと紙袋を、大切そうに、優しく握りしめる。
それを見た男は、また前を向き歩き出した。
ヒュウ…と、
再び風が吹き、雅の髪を揺らした。