桜廻る
キキィィィ──ッ!
今までに出した事のないような金属音を上げながら、雅の父も、急いでハンドルを回した。
しかし、間に合わなかった。
父と雅の命は、何とか助かった。
だが、母は、幼い雅を守るように抱きしめ、息を引き取ったという──。
『……今、こんな話をしてても、仕方ないよな』
「お父さん……?」
微かに聞こえた、鼻をすする音。
その音を、雅には聞かせたくない。
これが、父の気持ちだった。
だから。
『じゃあな。今日は、早く寝なさい』
「……うん。おやすみ、お父さん」
『おやすみ』
プツ、と、電話が切れた。
切なげな父の声に、雅は、何も聞かず頷くしかなかったのだった。