桜廻る
雅は申し訳なさそうな顔をして、永瀬から1mくらい離れた所を、歩いていた。
時々永瀬は後ろを振り返り、雅がちゃんとついて来ているかどうかを確かめる。
やっぱり会話が続かなくて、雅は少し俯いた。
カーカーと鳴いている鴉が、少し落ち込んでいる雅を嘲笑っているかのようだった。
「……ここか?」
「あ、うん……」
いつの間にか、見慣れた自分のアパートが目の前にあった。
「ありがとう、永瀬君」
「いや。また明日な」
「うん……。また明日」
雅はそう言うと、階段を登っていく。
ふと視線を感じて、また後ろを振り返った。
すると、まだそこにいた永瀬は、雅に軽く手をふり、踵を返して走り出す。
その後ろ姿を見送り、雅は家に戻ったのだった。