桜廻る




雅は申し訳なさそうな顔をして、永瀬から1mくらい離れた所を、歩いていた。


時々永瀬は後ろを振り返り、雅がちゃんとついて来ているかどうかを確かめる。


やっぱり会話が続かなくて、雅は少し俯いた。


カーカーと鳴いている鴉が、少し落ち込んでいる雅を嘲笑っているかのようだった。





「……ここか?」


「あ、うん……」





いつの間にか、見慣れた自分のアパートが目の前にあった。





「ありがとう、永瀬君」


「いや。また明日な」


「うん……。また明日」





雅はそう言うと、階段を登っていく。


ふと視線を感じて、また後ろを振り返った。


すると、まだそこにいた永瀬は、雅に軽く手をふり、踵を返して走り出す。


その後ろ姿を見送り、雅は家に戻ったのだった。




< 96 / 419 >

この作品をシェア

pagetop