王に愛された女




 本をめくってみた。

 自分が数年前に書いた本だった。

「…やはり…か」

 フリーゼルは婚姻ノ式の日のことを思いだしていた。

 あの日、自分が見たことが信じられずにいたが、自分の本を見た瞬間、「やはりか」という思いが胸の中に広がって行った。

 あの日、婚姻ノ式が終わった後、フリーゼルはルークに呼ばれて王室の図書館へ入った。そこではルークが前髪を上に上げた状態で待っていた。

 ルークの瞳は左右で色が異なっていた。

 それは、神の力を宿した剣を継ぐことのできる者の証なのだ。

 今の国王であるオラシオンの先祖も、左右で瞳の色が異なっていたと聞く。

「………くくく…」

 フリーゼルは両目を閉じた。

 数年前――この本を書き上げた時の出来事が瞼の奥に浮かぶ。

 新王妃の父であり、神の刻印についてよく知っていた男、ミハエルを殺した瞬間は今でも忘れられない。

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