王に愛された女



 だが、風の神の刻印を以前持っていた者なら七十年前に死んだ筈だ。

――オラシオン。オマエに我が一族に伝わる神の剣を預けよう。

 王位に就いた時、父に言われた言葉をオラシオンは思い出した。

――我が先祖は、風の神およびその刻印を持つ者を殺してその力を剣に宿させた。そうまでして得た力、決して無駄にするでないぞ。

 神の力を宿した剣は、神を倒した選ばれた者のみが得られる。

 オラシオンの先祖は、神を倒すどころか刻印を持つ者と神を殺し、力を得た。

 もしそれが本当なら、ガブリエルがその者の生まれ変わりであってもおかしくはない筈だ。

 そう考えてオラシオンはハッとした。

――雷の神、光の神、影の神、音の神…他。この神たちが蘇るのは数百年は後だろうな。

 先ほど、ローグが口にした言葉を思い出す。

 もし風の神の刻印や本体が死んだとしたら、今この世によみがえっているのはおかしなことだった。

 死に損なった神は、暫くこの大地をさまよい、その果てに生まれてきた神の証を持つ者の体に住み着いたのだろうか。

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