王に愛された女



「皆を連れて空の上で暮らすの。そしたら、こんな貧乏な生活から逃れられる。働いてばかりの生活とさよならできるから」

 ガブリエルが言うと、フィオーレは「そうだな」と呟いた。

 本当にそうなればいいのに、とガブリエルは思った。

 誰も苦しまなくて済むような、そんな世界を空の上から探し出したかった。

「俺は仕事に戻るよ。雨が降ってくる前にこの石を運びたいんだ」

 フィオーレは言い残して去って行った。

 残されたガブリエルは家へ戻る道を歩き出した。

 そのとき、風に乗って一瞬血の臭気が漂ってきた。

 ガブリエルは歩くのをやめた。風向きを調べるために人差し指を舐め、風に当てる。

 風は村の西側から吹いていた。

 ガブリエルは走って臭いの方へ走った。

 刹那。

 銃声が後方で鳴り響いた。

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