王に愛された女



「お兄ちゃん」

 ガブリエルは顔を上げた。

 振り返る。

 ガブリエルは右手から出血しているフィオーレを見て、泣きそうになった。

「大丈夫か?」

 ガブリエルはフィオーレに抱き着いた。

 兄の匂いに安心した途端、せきを切ったように涙が溢れた。

「何が起きてるの?」

「俺にもわからない」

 ガブリエルの問いにフィオーレが答える。

「……村長は?」

 ガブリエルは聞いてから兄を見上げた。

 フィオーレはキョロキョロと辺りを見回し、それから右後方を見て「あ」と声を上げた。

 彼の声は優しい声ではなく、怒りに満ち溢れた声だった。

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