月陰伝(一)
「はぁ〜あ、まったく年はとるもんじゃねぇな。
煉夜にこっちに当たらせるべきだったか…?
選択を間違えたなぁ」
雪深い山の中。
雪が降る時期ではないが、溶けることなく大地を覆う雪土は、運動不足気味の足腰には酷だ。
《凜、そこに岩穴がある。
少し休むぞ》
「おぉ、ならそこでもう一度、探索を掛けるか」
先に立って歩いていた一人の青年が、声を上げた。
指をさす先には、大きな穴がある。
奥行きもあり、寒さも凌げそうだ。
中に入り込み、よっこらせッと荷物を下ろす。
先に来ていた青年が既に火をおこしていた。
《本当にこの辺りなんだろうな?》
「ほぅ、オレの探索能力を疑っとるのか?」
不満顔をすれば、青年は、眉を寄せて呆れたように言った。
《お前も、大分年老いたからな》
「失敬なっ、オレは今年で二十回目の還暦だぞ。
まだまだ若いもんには負けんわいっ」
《……還暦で数えている時点でおかしい事に気付くべきではないのか…?》
人の枠から外れすぎて、感覚がおかしい事に気付いていないのだろう。
青年は、そんな、元”人”であった主人を見て、溜め息をつくのだった。
「そんじゃまぁ、探索をしてみるかな…」
そう言って、懐から紙を取り出し、集中し念を込める。
ピシッと電気が走ったように、紙が芯の入った物の様に端まで真っ直ぐに立つと、地面に術者を中心とした魔法陣が描かれた。
魔法陣が一際輝いた時、紙を手放すと、空中に浮き上がり、そのまま静止した。
すると、紙は光の粒子となって散り、それが再び集まって、丸い鏡が出来上がる。
そこに映し出されたのは、雪の積もった山の中。
この岩穴が映り、そこを通り過ぎて奥へ。
上へと登り、湧水を横目に今度は下る。
道なき道を進み、木が林立する方へ。
小川を渡り、また少し登って小さな滝の脇へ。
人一人が通れるくらいの岩穴の道を進むと、視界が拓ける。
そこに、小さな小屋があった。
小屋は一瞬映り、術が解けた。
「どうだっ、合っとるじゃないかっ」
《…そうだな…まだまだ先が長い事も確認できたな……》
「………っくぅぅぅっ、やっぱり煉夜に任すべきだったっ……」
心が折れそうだ。
《残ったら残ったで、憂李に尻を叩かれていたがな》
「憂李なんぞ怖くないわいっ」
《そうか、お前は仕事が怖いんだったな》
「そうそう、仕事が怖い…ってっんなわけあるかいっ。
オレはなぁ、あの積みあがっとるのを見ると、無性に外出したくなるんだよっ」
《それを逃亡と呼ぶ。
そのうち、フィリアム殿の様に、捜索隊と言う名の側近部隊が出来るぞ》
「っへんっ望むところだっ。
華麗に逃げ切ってみせようぞっ」
《いや…そもそも仕事から逃げる事が間違っているのだが…》
まぁ、頭より体を動かしたいと思うだけ、まだ若いのかもしれない。
落ち着いて目の前の問題に取り組むなんて事が出来るほど、出来上がっていないのだろう。
《…煉夜と同レベルだな…》
一番下の孫は、仕事嫌いな所から性格までそっくりだ。
あれの面倒を見ている結華は、良くできた人物だと思う。
「よっしっ、休憩終わりっ。
さっさとあのババァを取っ捕まえて帰るぞっ。
はよ帰らんと、煉夜のヤツにまたグチグチと言われるわいっ」
面白いのは、凜之助も煉夜も、お互いが言った事は、渋々受け入れると言う事だ。
周りが何を言っても駄目でも、お互いの言う事なら聞く。
いっそのこと、お互いが面倒を見あえれば良いのに…。
実際は、二人が一緒になったら、周りが被る迷惑が倍になるのだが……。
煉夜にこっちに当たらせるべきだったか…?
選択を間違えたなぁ」
雪深い山の中。
雪が降る時期ではないが、溶けることなく大地を覆う雪土は、運動不足気味の足腰には酷だ。
《凜、そこに岩穴がある。
少し休むぞ》
「おぉ、ならそこでもう一度、探索を掛けるか」
先に立って歩いていた一人の青年が、声を上げた。
指をさす先には、大きな穴がある。
奥行きもあり、寒さも凌げそうだ。
中に入り込み、よっこらせッと荷物を下ろす。
先に来ていた青年が既に火をおこしていた。
《本当にこの辺りなんだろうな?》
「ほぅ、オレの探索能力を疑っとるのか?」
不満顔をすれば、青年は、眉を寄せて呆れたように言った。
《お前も、大分年老いたからな》
「失敬なっ、オレは今年で二十回目の還暦だぞ。
まだまだ若いもんには負けんわいっ」
《……還暦で数えている時点でおかしい事に気付くべきではないのか…?》
人の枠から外れすぎて、感覚がおかしい事に気付いていないのだろう。
青年は、そんな、元”人”であった主人を見て、溜め息をつくのだった。
「そんじゃまぁ、探索をしてみるかな…」
そう言って、懐から紙を取り出し、集中し念を込める。
ピシッと電気が走ったように、紙が芯の入った物の様に端まで真っ直ぐに立つと、地面に術者を中心とした魔法陣が描かれた。
魔法陣が一際輝いた時、紙を手放すと、空中に浮き上がり、そのまま静止した。
すると、紙は光の粒子となって散り、それが再び集まって、丸い鏡が出来上がる。
そこに映し出されたのは、雪の積もった山の中。
この岩穴が映り、そこを通り過ぎて奥へ。
上へと登り、湧水を横目に今度は下る。
道なき道を進み、木が林立する方へ。
小川を渡り、また少し登って小さな滝の脇へ。
人一人が通れるくらいの岩穴の道を進むと、視界が拓ける。
そこに、小さな小屋があった。
小屋は一瞬映り、術が解けた。
「どうだっ、合っとるじゃないかっ」
《…そうだな…まだまだ先が長い事も確認できたな……》
「………っくぅぅぅっ、やっぱり煉夜に任すべきだったっ……」
心が折れそうだ。
《残ったら残ったで、憂李に尻を叩かれていたがな》
「憂李なんぞ怖くないわいっ」
《そうか、お前は仕事が怖いんだったな》
「そうそう、仕事が怖い…ってっんなわけあるかいっ。
オレはなぁ、あの積みあがっとるのを見ると、無性に外出したくなるんだよっ」
《それを逃亡と呼ぶ。
そのうち、フィリアム殿の様に、捜索隊と言う名の側近部隊が出来るぞ》
「っへんっ望むところだっ。
華麗に逃げ切ってみせようぞっ」
《いや…そもそも仕事から逃げる事が間違っているのだが…》
まぁ、頭より体を動かしたいと思うだけ、まだ若いのかもしれない。
落ち着いて目の前の問題に取り組むなんて事が出来るほど、出来上がっていないのだろう。
《…煉夜と同レベルだな…》
一番下の孫は、仕事嫌いな所から性格までそっくりだ。
あれの面倒を見ている結華は、良くできた人物だと思う。
「よっしっ、休憩終わりっ。
さっさとあのババァを取っ捕まえて帰るぞっ。
はよ帰らんと、煉夜のヤツにまたグチグチと言われるわいっ」
面白いのは、凜之助も煉夜も、お互いが言った事は、渋々受け入れると言う事だ。
周りが何を言っても駄目でも、お互いの言う事なら聞く。
いっそのこと、お互いが面倒を見あえれば良いのに…。
実際は、二人が一緒になったら、周りが被る迷惑が倍になるのだが……。