月陰伝(一)
佐紀が素早く動き、ドアに手を掛ける。
顔を見せたのは、与一だった。
「よぉ、入っても良いか?」
「どうぞ」
「悪ぃな。
お前らが居る部屋なら心配ないだろうと思ってな」
「与一だけなの?」
「ああ、他のやつらには、部屋に居てもらってる」
佐紀が椅子を勧め、それに座った与一に、若干楽しそうに美輝が訊ねた。
「盗聴器があるかもしれないからですか?」
「ああ、こいつはなぁ、盗聴器が嫌いなんだ。
だから、こう言う時なんかは、しっかりチェックするって知ってんだよ」
「?嫌いなの?」
いや、好き嫌いで言ったら、普通嫌いだろう…。
「耳鳴りがするんだよね。
それに、私より精霊達の方が違和感を感じるみたいで」
「結華ちゃんは、繊細なんだね」
「っ…おい…お前、どんだけ猫かぶってんだ?」
「ネコ?」
全員の目が集中する。
だが、佐紀だけは、笑っていた。
「っくっいや、久間さん。
結は猫なんて被ってませんよ。
本質が見えるような事態が、まだ皆さんの前で起きていないだけです」
何だか失礼だ。
「結姉、盗聴器で何かあったのか?」
「?処分したくらいかな?」
「っバカかッ。
あれがそんな可愛らしいもんだったか!?
部屋に入った途端に爆破しやがってっ。
怪我人が出て大変だったんだぞっ!?」
「ああ、あれか」
「っ…おねぇちゃん!?」
そのビックリ眼はやめてほしい。
それに、悪いのは私じゃない。
「言っとくけど、部屋を消し炭にしたのは、私じゃなくてフィル様だよ?
私はこっち側の人を守ってたし」
「あっち側の奴等を見殺しにしただろ」
「死ななかったでしょ?
病院送りになるのを見てただけだよ」
あれはあちらが悪い。
フィル様がやらなかったら、私がやっていた。
立派な裏切り行為だったのだ。
制裁を加えて何が悪い。
「間違っても今回は、爆破なんてしてくれるなよ!?」
「期待されてる?」
「っするかっ!!
いいなッ。
絶対にするなよッ」
そんなの分からないじゃないか。
「大丈夫ですよ、久間さん。
結に無茶はさせませんから」
「頼むぞっ」
不満顔をしていれば、雪仁がお茶を持ってきた。
「どうぞ」
「おう、ありがとな」
「はい、結華ちゃん」
「ありがとうございます」
そのお茶を飲もうと口元へ運んだ時、嫌な予感がして、とっさに魔術が発動した。
「っうわっ!」
「ッきゃぁっ」
「えぇっ!?」
全てのお茶の器が割れ、お茶が床に飛び散る。
「っおいっ、何しやがるっ」
「ふんっ」
責められる謂われはない。
不貞腐れて、溢れたお茶を魔術で宙に浮かせ、そのまま流し台に流す。
割れた器も、元に戻した。
それを面白そうに見つめる神城一家を目の端に映しながら、立ち上がってお茶の葉と用意されていたポットのお湯を確認する。
その姿を見て気付いた与一が立ち上がり、慌ててドアに向かった。
「っ全員連れてくるっ。
良いな!?」
頷き答え、原因だった茶葉に術を掛ける。
「何かあったの?」
母が不思議そうに訊ねてきた。
それに答えたのは刹那だった。
「…まさか…毒物?」
「っ毒!?」
「うん…と言っても、少しハイになるだけだよ。
まぁ、取りすぎると良くないけど」
「良く気付いたねぇ…」
「ちょっとした違和感があったので……すみません、ビックリしましたよね…」
「いやぁ、驚いたけど、助かったよ。
結華ちゃんは理不尽な事はしない子だって思ってるから、何か理由があるんだろうなと思ってね。
だから、気にしなくてもいいよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
本当に、明人さんは好い人だ。
顔を見せたのは、与一だった。
「よぉ、入っても良いか?」
「どうぞ」
「悪ぃな。
お前らが居る部屋なら心配ないだろうと思ってな」
「与一だけなの?」
「ああ、他のやつらには、部屋に居てもらってる」
佐紀が椅子を勧め、それに座った与一に、若干楽しそうに美輝が訊ねた。
「盗聴器があるかもしれないからですか?」
「ああ、こいつはなぁ、盗聴器が嫌いなんだ。
だから、こう言う時なんかは、しっかりチェックするって知ってんだよ」
「?嫌いなの?」
いや、好き嫌いで言ったら、普通嫌いだろう…。
「耳鳴りがするんだよね。
それに、私より精霊達の方が違和感を感じるみたいで」
「結華ちゃんは、繊細なんだね」
「っ…おい…お前、どんだけ猫かぶってんだ?」
「ネコ?」
全員の目が集中する。
だが、佐紀だけは、笑っていた。
「っくっいや、久間さん。
結は猫なんて被ってませんよ。
本質が見えるような事態が、まだ皆さんの前で起きていないだけです」
何だか失礼だ。
「結姉、盗聴器で何かあったのか?」
「?処分したくらいかな?」
「っバカかッ。
あれがそんな可愛らしいもんだったか!?
部屋に入った途端に爆破しやがってっ。
怪我人が出て大変だったんだぞっ!?」
「ああ、あれか」
「っ…おねぇちゃん!?」
そのビックリ眼はやめてほしい。
それに、悪いのは私じゃない。
「言っとくけど、部屋を消し炭にしたのは、私じゃなくてフィル様だよ?
私はこっち側の人を守ってたし」
「あっち側の奴等を見殺しにしただろ」
「死ななかったでしょ?
病院送りになるのを見てただけだよ」
あれはあちらが悪い。
フィル様がやらなかったら、私がやっていた。
立派な裏切り行為だったのだ。
制裁を加えて何が悪い。
「間違っても今回は、爆破なんてしてくれるなよ!?」
「期待されてる?」
「っするかっ!!
いいなッ。
絶対にするなよッ」
そんなの分からないじゃないか。
「大丈夫ですよ、久間さん。
結に無茶はさせませんから」
「頼むぞっ」
不満顔をしていれば、雪仁がお茶を持ってきた。
「どうぞ」
「おう、ありがとな」
「はい、結華ちゃん」
「ありがとうございます」
そのお茶を飲もうと口元へ運んだ時、嫌な予感がして、とっさに魔術が発動した。
「っうわっ!」
「ッきゃぁっ」
「えぇっ!?」
全てのお茶の器が割れ、お茶が床に飛び散る。
「っおいっ、何しやがるっ」
「ふんっ」
責められる謂われはない。
不貞腐れて、溢れたお茶を魔術で宙に浮かせ、そのまま流し台に流す。
割れた器も、元に戻した。
それを面白そうに見つめる神城一家を目の端に映しながら、立ち上がってお茶の葉と用意されていたポットのお湯を確認する。
その姿を見て気付いた与一が立ち上がり、慌ててドアに向かった。
「っ全員連れてくるっ。
良いな!?」
頷き答え、原因だった茶葉に術を掛ける。
「何かあったの?」
母が不思議そうに訊ねてきた。
それに答えたのは刹那だった。
「…まさか…毒物?」
「っ毒!?」
「うん…と言っても、少しハイになるだけだよ。
まぁ、取りすぎると良くないけど」
「良く気付いたねぇ…」
「ちょっとした違和感があったので……すみません、ビックリしましたよね…」
「いやぁ、驚いたけど、助かったよ。
結華ちゃんは理不尽な事はしない子だって思ってるから、何か理由があるんだろうなと思ってね。
だから、気にしなくてもいいよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
本当に、明人さんは好い人だ。